エネルギー政策の転換を

今回の大震災と原発事故は、私たちに大きな困難と厳しい現実をつきつけています。その中で、今、政治が決断しなければならないことは、大きく二つだと思います。一つは、被災地の復旧・復興のビジョンとその財源を明らかにすること。もう一つは、原発から自然エネルギーへの転換。これまで原発は、「安全・クリーン・安い」と言われてきましたが、福島原発事故で、はからずもその「安全」「クリーン」神話は崩壊しました。今回のレポートでは、ほんとうに「安い」のか? 主に原発の不経済性=費用面から検証し、エネルギー政策の転換について考えてみたいと思います。

<発電コストを比較すると原発は安くない>

まず、東京電力の公式ホームページに掲載されている電源別発電コスト(1kWhあたり)は、一般水力=11.9円、石油火力=10.7円、LNG火力=6.2円、石炭火力=5.7円、原子力=5.3円となっています。これを見ると、原発が一番コストがかからず、「安い」ということになります。しかし、これはいくつもの想定条件を設定して「計算」したもので、例えば、震災前火力はほとんど稼動していないものもありますが、想定稼働率80%と現実にはありえない数字で計算されています。

一方、立命館大学の大島堅一教授が作成した1970年〜2007年までの実績ベースでの発電コストを見ると、原子力+揚水=10.13円、原子力=8.64円、火力=9.80円、水力=7.08円、一般水力=3.88円。これを見ると、原発が他の電源に比べて安いわけではなく、いまや一般的となっている「原子力+揚水(注1)」発電のコストが一番高いことがわかります。

注1)揚水発電とは、夜間などの電力需要の少ない時間帯に原子力発電所などから余剰電力の供給を受け(原発は出力調整ができないため)、下部貯水池(下池)から上部貯水池(上池)へ水を汲み上げておき、電力需要が大きくなる時間帯に上池から下池へ水を導き落とすことで発電する水力発電方式。


<これだけではない原発のコスト>

両者ともコスト計算の対象としているのは、■発電に要する費用=燃料費、減価償却費、保守費用等。■バックエンド費用=使用済燃料再処理費用、放射性廃棄物処分費用、廃炉費用で、私たちが支払う電力料金に算入されていますが、これ以外にも、原発には費用がかかります。

具体的には、■国からの資金投入(税金)=立地対策費(自治体への交付金補助金)、研究開発費等。■事故に伴う被害と被害補償費用 ご承知のとおり、原発の立地には国から多額の交付金補助金が地元自治体へばらまかれます。経済産業省の資料によると、1975年〜2007年までの電源立地に係る交付金の総額は、9137億5900万円。このうち原発関係は、その約7割にあたる6251億1700万円となっています。また、国の一般会計予算から支出されている「エネルギー対策費」は、1976年度以降毎年1000億円を超え(2006年度以降1000億円弱に)ていますが、そのほとんどが原発に充てられています。しかし、これらの国からの資金投入(税金)は原発の「コスト計算」には含まれていません。

また、今回の福島原発の事故は、未だ収束のメドさえついておらず、その被害補償額の全容も明らかになっていませんが、まちがいなく何十兆円規模になるでしょう。この事故リスクも含めれば、原発が「安い」どころか、いかに不経済=経済的合理性がないものか明らかです。

*さらに「バックエンド費用」には、これまでの歴代政権が推し進めようとしてきた使用済燃料の再処理費用、高レベル放射性廃棄物処分費用など、全くメドがたたず、その費用計算さえできないものがありますが、今回は省略します。

原発から再生可能=自然エネルギーへ>

これまで「安全、クリーン、安い」と宣伝され、国策として推し進められてきた原発推進政策を根本的に改めるべきです。その際に必ずと言ってよいほど語られるのが、「原発をやめると電力の安定供給ができない」というものです。しかし、日本の発電能力の総量は、真夏の電力消費のピーク時においても、原子力を除いた火力・水力で賄うことは可能です。

逆に電力の「安定供給」というなら、今回の事故でも明らかになったように”地震大国”日本で、電力の安定供給のためには、原発から脱却が必要です。これまで原発の立地(地元対策)だけでも1兆円近い税金を投入してきた分を、再生可能エネルギー補助金として支出するならば、全家庭に太陽光発電燃料電池を普及させることができるでしょう。

<独占的電力供給体制から地域分散型エネルギーシステムへ>

また、今回の原発事故は、大規模・集中型の電力供給システムの欠陥を露呈しました。一つは、非常時の対応と復旧が迅速に対応できないということ。もう一つは、独占的な電力会社による供給体制では、「公益事業」として「利益」を国から保証されてきたため、危険で不経済な原発を推進してきたことです。コスト面で検証したとおり、明らかに経済合理性からはかけ離れたものです。(世界的にも、市場原理による電力自由化を進めた国々はおしなべて原発から撤退しています)

今回事故をおこした福島原発も、新潟の柏崎原発も、東京電力の区域外に建設され、そこで発電された電力はすべて首都圏に供給されていました。いわば、危険・厄介な原発を「地方」に押し付けてきた構造です。この構造を変えるためにも、再生可能エネルギーへの転換と共に、地域分散型、いわばエネルギーの「地産地消」が必要です。「地産地消」ですから、地域特性にあった多種多様な発電方式が考えられます。太陽光、地熱、小水力、木材、都市ガス、工場の廃熱など。太陽光は全国(あるいは世界)共通ですが、神奈川県は、京浜工業地帯、箱根などの温泉地、丹沢山系など多様な発電インフラがあります。これらを活用すれば、多様な地域分散型エネルギーシステムへの転換は可能です。エネルギー政策の転換へと、今、政治が決断すべきです。