下水道事業に関する基本的視点

 今回の下水道料金値上げにあたって当局は「下水道特別会計は、使用料収入だけでは維持管理費用等を賄うことができないため、一般会計から継続的な繰入金により収支を保っている状況にあり、下水道事業への多額の繰入金は一般会計の財政を圧迫している」とその理由を説明している。こうした現状認識は「間違っているか否か」と言えば、間違ってはいない。しかし、率直に言って「だから料金値上げが必要」という「結論」については、違和感を禁じえない。使用料を上回る一般会計からの繰り入れは、本市の下水道事業開始以来、ずっと続いてきたことであり、何も近年急に「収支が悪化」したわけではない。逆に言えば、これまで一般財源(市税)を投入し、下水道事業の整備と維持管理を行ってきた経過を否定するかの如く聞こえる。

そこで下水道事業の運営のあり方について整理をしてみたい。

 確かに下水道事業は、地方財政法の規定により、公営企業として位置づけられ、特別会計の設置と独立採算の原則の適用が義務付けられている。しかし、地方公営企業法の適用については、下水道施設の建設段階では経費の相当な部分を地方公共団体一般財源で賄うことになるので、地方公営企業法を一律に適用させるのではなく、それぞれの事業の実情に即して適用するか否か地方公共団体の判断に委ねている。(地方財政法第6条「公営企業の経営」 政令第37条「公営企業」)

 下水道事業に係る経費の負担区分については、公営企業に係る一般会計繰出基準(総務省自治財政局長通知)が示されているが、基本的な考え方は「雨水公費、汚水私費の原則」により、汚水私費部分は利用者からの下水道使用料で賄うこととされている。

 下水道事業は施設の規模が大きく、その建設費は多額となるため、建設段階の財源の大部分は国庫補助金と地方債(下水道事業債)で賄われることになる。この地方債に係る資本費(元利償還金)は、本来は、供用が始まり下水道サービスの提供により受益を受ける利用者が負担することが「原則」とされている。本市においては、普及率は94%(2011年度末見込み)となっており、一般的に言えば、資本費回収の環境は整ってきたと言えるだろう。

 しかし、市町村の公共下水道事業の場合、利用者(受益者)と市民はほぼイコールであることから、資本費をどのくらいまで下水道使用料で負担するのか、一般財源(市税)で負担するのかについては、市町村の判断による。すなわち自治の問題だと言える。

 この判断基準は本市においては、1)今後の建設事業(投資)をどう見通すのか。2)現下の経済情勢ーデフレ不況下における市民負担増をどう考えるのか。こうした視点から捉えなおす必要がある。

1)について言えば、市街化区域の下水道整備が100%近く進捗した中で、市街化調整区域の「整備」をどう考えるのかということが論点となる。当たり前の話だが、市街化調整区域の面的整備は、市街化区域に比べて割高となる。(人口密集度からして) 当局は市街化調整区域の大半を整備区域として新たに認可申請しようといるが、その事業費総額は、約18億円。今回の値上げによる使用料の増分は、年間約1億円であるので、市街化調整区域の「整備」を10年かけて行う場合、単純計算で年間で1.8億円。今回の値上げ額より多くの経費が建設事業に投入されることになる。一方、合併浄化増による個別処理方式(補助方式)による1戸あたりの経費比較では、合併浄化槽補助方式は下水道整備の約半分で済む。よって、市街化調整区域の下水道整備事業については、費用対効果の再検証をすべきである。

2)について言えば、現在の市民税賦課状況を見ても、一人当たりの所得はリーマンショック以降、急激に落ち込んでおり、デフレ不況下の市民負担増は、明らかにデフレスパイラルを加速させることは明らかである。この点からも値上げの妥当性が検証されなければならない。

この二つの判断基準を土台として、一般的な「原則論」である維持管理費と資本費(下水道債の元利償還金)の「受益者負担」について、どこまでを市税で負担するのか、どこまでを使用料で負担するのかという議論が必要となる。