2014年8月17日 半田滋さん(東京新聞 論説・編集委員)講演要旨

集団的自衛権の行使容認を閣議決定した安倍首相。7月1日の記者会見では、ウソが満載された。
安倍首相:「集団的自衛権が現行憲法で認められているのかという抽象的議論ではない。現実に起こり得る事態に現行憲法下で何をなすべきかという議論だ」
輸送艦で運ばれる日本人母子が大きく取り上げられたが、そんな母子はいない。あり得ない。1997年の日米ガイドラインにおいて、自民党中谷元議員は、邦人輸送について「最終的には断られました」と答弁している。ガイドラインでは「非戦闘員を第三国から安全な地域に退避させる必要が生じる場合には、日米両国政府は、自国の国民の退避及び現地当局との関係について各々責任を有する」とある。

安倍首相:「自衛隊がかつての湾岸戦争イラク戦争での戦闘に参加するようなことはこれからも決してない」
一方で、国会の集中審議では「ホルムズ海峡の機雷除去は検討に値する」と答弁。機雷除去は明らかに武力行使となる。また、このことは、2012年8月に出されたアーミテージレポートの中に「日本は単独でもホルムズ海峡の機雷を除去すべきだ」と書かれており、その言葉を繰り返しているにすぎない。「日米同盟は血の同盟」が持論の安倍首相、日米同盟の強化のために集団的自衛権を行使したのに米国の戦争を支援しませんとはいえない。

安倍首相:「他国を守るために日本が戦争に巻き込まれるという誤解があるが、あり得ない」

1990年代、米国が北朝鮮への攻撃を検討していた時、当時の防衛庁は「k半島事態対処計画」というものをつくり、その中では「港湾・重要防護施設の破壊、弾道ミサイル攻撃、27万人の難民」などを想定しており、「巻き込まれない論」は、政府の思考停止としか言いようがない。また、今回の記者会見でも、集団的自衛権を行使した場合の自衛隊のリスク、日本本土が攻撃されるリスクについて、全く説明していない。

安倍首相「今回の新三要件も、今までの三要件と基本的な考え方は同じ」

我が子と隣人の子の区別ができないのか。全く違うもの。ただし、内閣法制局を通った文章。元法制局長官の阪田氏は「新三要件では個別的自衛権しか行使できない」と言っている。まっとうに解釈すればそうなる。しかし、読み方によればどうにでも読める。最後は首相判断で押し切るつもりか。


■付け焼刃の安全保障政策
米軍再編の最終合意の中で、沖縄の海兵隊は実戦部隊が残る。グアム島に司令部と後方支援部隊が移動していくということが決まった。この時、沖縄のみなさんや野党は逆してほしいと、乱暴者がいて、事件・事故を引き起こしているのは実戦部隊じゃないか。実戦部隊をグアムに移してほしいということを強く求めたが、「それでは抑止力が維持できない」といって日本政府は断った。

しかし、おととしの4月に再び日米で米軍再編の中身がやりとりされた。その結果、キャンプシュアブにいる第4海兵連隊がグアムに移転することになった。抑止力が維持できないと、あれほど実戦部隊は動かせないと言っていたにもかかわらず、アメリカから「都合で中身を入れ替えますよ」と言われたとたんに、「どうぞ、どうぞ」と。抑止力ということでは何も説明できないようなことを認めている。

なんでこれだけ基地が必要なのか。ほんとうに抑止力というだけの中身が沖縄の米軍基地にはあるのか。海兵隊19000人が定数と言われているが、ほんとうに海兵隊はどのくらいの人数がいるのか。県道104号越えの訓練移転のために1年のうち9か月を沖縄をあけてしまう、第12海兵連隊、そしてグアムに移転していなくなってしまう第4海兵連隊、また1年のほとんどを船の上に乗って過ごしている第31海兵遠征隊、これが沖縄のすべての実戦部隊。これらの人たちが沖縄にいないのに、抑止力だというのはあまりにもウソではないか。こんなことを認めていてはいけない。

キャンプ座間でも、当初、米陸軍第一軍団司令部の移転は「展開可能で統合任務が可能な作戦司令部組織に近代化される」ということだったが、現実には前方司令部として専従要員はわずか3名。司令官も少将。米軍では中将以上でないと統合指揮はできない。陸自の中央即応集団司令部が座間に移転してきても、連携はとれない。当初の米軍再編最終合意と違っている。

■日米同盟と集団的自衛権 「行使容認」自体が目的

アメリカの中で「知日派」と言われているリチャード・アーミテージジョセフ・ナイといったような人たち、アメリカのシンクタンクのもとでアーミテージレポートという日本に対する安全保障政策をこのようにやりなさい、というロードマップというようなものを過去3回出している。

それが2000年、2007年、2012年。そして毎回書いてある言葉が、「集団的自衛権権の行使を禁止していることが正常な同盟関係の阻害となっている」。すなわち、日本は憲法を変えるか、憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を認めるようにしてほしい。そうなれば、アメリカとイギリスとの関係のように正常な同盟関係となるということを、繰り返し繰り返し日本側に突き付けてきた。

安倍首相は、7/14.15の予算委員会の集中審議の中で、「日米同盟は死活的に重要である」と言っている。アメリカから要求されたことに「ノー」と言ったら大変なことになる。だからアメリカの要求に対しては答えていかなければならない。そういう趣旨を述べた。

振り返ってみれば、アメリカはフセイン政権が、大量破壊兵器を隠し持っていると、今から考えればとんだ間違いだったのだが、そういうウソをついて始めたイラク戦争に対して、わが国政府は批判的だったドイツやフランスと異なって、イラク特別措置法という法律をつくって、600人の陸上自衛隊を2年半にわたって、イラクに送り込んでいった。

この時、2004年12月4日、小泉首相が国会で国民に述べた言葉は「日米同盟は何より重要だ」。あの時はまだ、憲法解釈の変更はなかった。したがって派遣された陸上自衛隊の隊員は、人道支援。現地で道路や橋を直したり、医療指導として現地のお医者さんたちに医療のやり方を教えたり、給水、水を提供したり、そういう活動に徹してきた。

しかしながら、7月1日をもって憲法解釈を変える。今年の12月までには日米防衛協力のための指針、日米ガイドラインを変えて、アメリカのためにもこらから日本は戦争ができるように変えていく。

そうすれば、アメリカに対して約束をしたことになる。来年の通常国会では、自衛隊法、日本の周辺でアメリカが行う戦争に、自衛隊ばかりでなく民間人を協力しなければならないとした1999年に定められた周辺事態法も大きく変わっていくだろう。

この12月に対米公約をする。その対米公約に基づいて、来年の夏までには日本が文字通り法律によって戦争ができる国になる。そういうことがほぼ決まったと言える。

安倍首相自身も、2004年に表した「この国を守る決意」という中で、「軍事同盟は血の同盟」「アメリカを日本を守るために血を流しても、日本は血を流すことがない。これで対等なパートナーシップと言えるのか」「我々の世代には重大な責務がある。日米安全保障条約を堂々たる双務性に高めていくこと」そのように述べている。

これまでの自民党政権は、日本はアメリカを守ることができない代わりに沖縄など多くの基地を提供する義務があるのだ。アメリカと対等な関係なのだ。アメリカは日本を守り、日本はアメリカにただで基地を提供している。すでに安保条約は双務性を帯びているという、自民党政権の考えを安倍首相は覆してしまった。

これで、日本はアメリカも守る。過重な基地の負担も引き続き受け入れる。こういうことを約束してしまった。要するに、安倍首相が集団的自衛権の行使を容認すること自体に目的があったからと考えざるを得ない。